契約


恋人紹介

525 名前:雷鳥一号 投稿日:03/11/16 02:07
友人の話。

渓流釣りに行き、山中の河原に野営していた夜のこと。
竿の手入れをしていると、焚き火の向こう側に何かがいるのに気がついた。
姿形はおぼろ気ではっきりと見えないが、不思議にも恐いとは思わなかった。
それはじっとこちらを見ていたが、やがてその竿をくれと言ってきた。

彼は少し考えて、恋人と引き換えならあげてもいいと答えた。
するとそれはついて来いと言い、立ち上がって歩き出した。
素直についていくと、しばらくして崖がオーバーハングしている場所に出た。
娘が一人、遺書と書かれた封筒と薬の瓶を持って倒れていた。
慌てて道具を投げ出し、介抱したそうだ。

気がつくとそれは姿を消してしまっていた。
いつの間にか、釣竿が二本と魚篭が一つ失くなっていたという。
一本は鮎竿でかなり高価だったらしく、かなり落ち込んだそうだ。
その時助けた娘さんは、現在彼の奥さんになっている。


山の主さま

636 名前: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 04/01/07 22:21

知り合いの話。

彼の先祖に、羽振りの良い男衆がいたのだという。
猟師でもないのに、どうやってか大きな猪を獲って帰る。
ろくに植物の名前も知らぬくせに、山菜を好きなだけ手に入れてくる。
沢に入れば手の中に鮎が飛び込んでき、火の番もできぬのに上質の炭を持ち帰る。
田の手入れをせずとも雀も蝗も寄りつかず、秋には一番の収穫高だ。

彼の一人娘が町の名士に嫁入りする時も、彼はどこからか立派な嫁入り道具一式を
手に入れてきた。
手ぶらで山に入ったのに、下りてくる時には豪華な土産を手にしていたそうだ。

さすがに不思議に思った娘が尋ねると「山の主さまにもらったのだ」と答えた。
その昔、彼は山の主と契約を交わしたのだという。
主は彼に望む物を与え、その代わり彼は死後、主に仕えることにしたのだと。

何十年か後、娘は父に呼び戻された。
彼は既に老齢で床に伏せていたが、裏山の岩を割るよう、主に命じられたという。
娘は自分の息子たちを連れ、裏山に登った。
彼の言っていた岩はすぐに見つかり、息子が棍棒で叩いてみた。
岩は軽く崩れ割れ、その中から墓石と、白木の棺桶の入った大穴が現れた。
誰がやったのか、彼女の父の名がすでに刻まれていた。
話を聞いた彼は無表情に呟いたそうだ。

 埋められる所まで用意してくれるとは思わなんだわ。

それからすぐに彼は亡くなり、まさにその墓に埋葬されたのだという。


637 名前: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 04/01/07 22:23

この話には後日談がある。

数年後、娘の夢枕に父親が立ったのだという。
老いた姿ではなく、若々しい男衆のままの姿形であった。
彼はなぜかまったく余裕のない表情をしていた。
彼女が懐かしさのあまり声をかけようとすると、彼は怖い顔でそれを止めた。
そして一言だけ発して、消えたのだという。

 お前たちは、絶対に主と契っちゃならねえ。

翌朝目を覚ましてからも、彼女はその夢を強く憶えていた。
一体父は死んだ後、主の元でどんな仕事手伝いをしているのだろう?
その時、隣で寝ていた夫が起き上がり彼女に話しかけた。
夫の夢にも、養父が現れ何かを告げたのだそうだ。

しばらくして彼女の夫はその山を買い取り、全面入山禁止にした。
しかし、その理由は妻を含め、誰にも教えなかったという。


交換

734 名前: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 04/01/10 23:45

知り合いの話。

彼は学生時代にオフロードバイクを趣味にしていたという。
よく一人で山中の林道を走っていたそうだ。
ある夜、バイクの横でシュラフに包まっている時のこと。
ふと目を覚ました彼は、すぐそばに小柄な影が立っているのに気が付いた。
身を硬くする彼に、それは奇妙な抑揚をつけて話しかけてきた。

望みを言え。お前の大事なものと交換してやろう。

大手の企業に就職が決まっていた彼は、しばらく考えてから答えた。
会社で大出世をさせてくれ。代わりに俺の子どもを差し出そう。

よかろう。その願い聞き入れた。

承諾の返答が聞こえると、影はすうっと消え去った。
彼は身を起こして、くすくす笑ったという。
おかしな夢だと思っていたし、何といってもその時、彼はまだ独身だったのだ。
当然子どもなどいるはずもなかった。


735 名前: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 04/01/10 23:46

数年後、彼は二十代の若さで課長に抜擢された。
その企業では異例の大出世で、陰口も色々と叩かれたという。
彼自身の頑張りももちろんあったのだが、ライバルたちがことごとく病気や事故で
脱落してしまったせいだった。
呪いという言葉まで囁かれたのだそうだ。
元来勝ち気な彼は気にもせず、ますます仕事に邁進した。
会社の創業者の孫を嫁にもらい、向かうところ敵なし順風満帆だった。

それからしばらくして、彼は影との取り引きを思い出すことになる。
彼の妻が流産してしまったのだ。
あれは夢だったはずだ、何かの偶然だ。
そう思ったが、妻はそれから続けて二回流産をくり返した。
検診では母子ともに健康だったといい、医師にも理由が分からないと言われた。
憔悴しきった妻には、とても約束のことは話せなかった。

彼は恐怖に襲われ、あの林に一人で出向いたらしい。
しかし彼の前に影は現れなかった。
必死で林に向かってひざまずき、あの願いを忘れてくれと頼んだという。

現在、彼の妻は四回目の妊娠をしている。
周囲はいささか神経質に見守っているのだそうだ。


787 名前: 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 04/01/13 00:40

>>745
どーもです。>>738はなかなか鋭いとこ突いています。

忘れてくれと彼が訴えてからしばらくして、彼の担当していたプロジェクトが
失敗して大赤字を出してしまい、責任を問われたそうです。
結局、創業者一族のどろどろとした争いに巻き込まれた形となり、地方の
支店へ左遷になってしまったとか。
肩書きは上がったそうですが、負け組み確定になったようで。

奥さんは甘やかされて育ったお嬢様らしく、読書好きでも物静かでもない
ようです。すごいわがまま・・・夫婦仲は良いようですが。
奇妙な流産だったようで、精神的な面以外には母体に悪い影響はなかった
と医者に言われたんだとか。
まるで何かに腹の中の子どもをさらわれたように思えたとも・・・。

流産の反動か分かりませんが、現在3人もお子さんがいるらしいです。
最後にホッとしたサンダーバードでした。


(コメント)

山の主=山の神なのかどうかは、よく分かりませんが、釣竿と恋人の交換くらいならまだしも、死後に仕えるだとか、自分の赤ちゃんと自分の出世を交換するだとかは、あまり見習いたくはありません。どう見ても損得勘定が合わない気がします。取立てがヤクザより怖いし、法律も通用しません。相手は人間より様々な面で長けており、人間が得したと思っても、最終的には相手の方に軍配が上がるでしょう。怪しいサラ金からは金を借りない方がいいのと一緒で、未知の存在と迂闊に契約するのは考えものです。


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